仙台高等裁判所 昭和23年(ナ)5号 判決
原告 宗形助太郎
被告 福島県選挙管理委員会
一、主 文
昭和二十三年六月三十日行われた福島県安積郡大槻町長岡部文治の解職賛否投票について原告のした訴願につき被告が同年十月五日した裁決を取り消す。
前記大槻町長岡部文治の解職賛否投票は無効とする。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として左のとおり述べた。
一、原告は昭和二十三年六月三十日行われた福島県安積郡大槻町長岡部文治の解職賛否投票における選挙人であるが、同年七月十四日大槻町選挙管理委員会に対し、右投票が選挙の規定に違反する無効のものであることを理由として異議の申立をしたところ、同年七月十六日右異議の申立は相立たない旨の決定をうけたので、原告はこれを不服として更に同年八月五日被告委員会に訴願したところ、同年十月五日訴願人(原告)の申立は成り立たない旨の裁決をうけ、同月八日裁決書の送達をうけた。なお本件解職請求当時の大槻町における選挙権者の総数は二千七百三十二名であつたが、本件賛否投票総数は千九百六十五票、その内有効投票数は千八百三十八票、無効投票数は百二十七票で、右有効投票数中解職に賛成するもの千三十二票、反対するもの八百六票で、その結果大槻町長岡部文治の解職が成立したのである。
二、けれども、右賛否投票は左の事由によつて無効とすべきものである。
(一) 本件解職請求についての代表者は、大槻町の選挙権者である訴外前林一茂であつて(代表者証明書の交付をうけたのは昭和二十三年四月二十六日で、その当時その旨告示された)、同人が最後に大槻町選挙管理委員会に提出した同町長解職請求者署名簿は同町選挙権者千二百二十四名の記名調印あるものであつた。しかし同人は最初昭和二十三年四月二十六日同町長解職請求者署名簿を提出したのであるが、その際は前記前林一茂が代表者であることの証明書の交付をうけないで、署名捺印を求めたものである等の事由で却下されたので、これを補正し再度提出したところ、同委員会においてはその署名簿中に同一世帯内の者の署名を世帯主が代筆したこと明瞭と思われるもの相当数見受けられ、ために有効署名数が法定数を欠くおそれがあるとして右代表者に事実を確めたところ代表者も同意したので照合をまたずに却下されたものである。そこで請求代表者である前記前林は請求者署名簿を三度同委員会に提出したのであるが、その署名簿は前に提出したものの中僅少の一部分を訂正したばかりで前記二回にわたる却下の事由となつたかしを補正解消するに至らない無効のものである。すなわち、前記前林が三度目に提出した請求者署名簿は第一回に却下された日である昭和二十三年四月二十六日前に署名捺印されたものが大部分であつて、訂正された部分は署名者一千二百二十四名中大槻町字福樂沢に居住する者四十名、字下町に居住する者百五十一名、字針生に居住する者百三名の内三十五名合計二百二十六名である。しかもこの訂正は同年五月十日前後に行われたのであるが、これは先に記名した署名簿の紙片と一緒に、別に新しい用紙を各戸に廻し「先の名簿と同様に書きかえること」を主眼に行われ請求代表者の証明書もしくわその写の添付がなかつたものであるから、この分も本件署名簿中右訂正された以外の署名あるいは記名者九百九十八名の分とともに地方自治法施行令第九十二条の規定に反する記載である。
(二) 本件署名簿には各紙葉の間にその連続を示すべき契印を欠いているから連署の形式を具備しない無効のものである。
(三) 本件署名簿に記名調印ある選挙権者千二百二十四名中少くとも別紙目録(甲)第一「同一人の筆跡と見られるもの」記載の三百八連八百二十九名(ただしこの中には有権者でない者三名を含む)はいずれも本人の自署したものでなく、また同上第二「本人の署名でないことが明らかなもの」記載の百十六名の分はいずれも当該本人が自署でないことを自認しているのである。それで前記千二百二十四名中から右自署でない分を差し引くと結局同町選挙権者総数二千七百三十二名の三分の一(九百十一名となる)に達しないから右のような法定の署名数を欠く署名簿を添えた本件解職請求は無効のものである。従つてかかる無効の請求によつては大槻町長岡部文治の解職請求の賛否投票を実施すべきでないのにかかわらず、これを行つたものであるから右賛否投票もまた無効に帰するのである。よつて、被告委員会のした前記裁決は失当であるから原告は右裁決の取消および右賛否投票の無効であることの判決を求めるため、本訴を提起した次第であると陳述し、なお、被告の主張に対し、
一、被告は本件署名簿の署名中同一筆跡のもの百十三連二百七十二名あることを認めながら、各連の中一名は自署であるとの推定の下に右二百七十二名から百十三名を差し引いた百五十九名のみが自署でないとしているが、これは明らかに経験則に反する根拠なき独断であつて、同一筆跡からなる各連は全部自署でないとみるべきである。
二、被告は地方自治法第八十五条第六十七条の規定により、たとえ有効署名が法定数に達しないとするも、その後の投票の結果、賛成者が過半数に達しているのであるから直接投票の趣旨からみて署名簿中の署名の有効無効は右投票の結果に影響することなく、本件解職賛否投票は有効であると主張するけれども(イ)署名が法定数に達するか否かは解職賛否投票の前提要件であり、もし被告のいうが如くこの要件の重大かしを不問に付するようなことがあるならば、地方自治法運営の根底が明確さを欠き、いわゆる「リコール制」か放しな運営にゆだねられることになるので、被告の見解は民主主義的新地方自治制度擁護の見地から断じて容れらるべきではない。(ロ)のみならず、解職賛否投票はその請求につき法定数の有効署名があることを前提として行われるのであるから、本件についても一般投票者は本件解職請求につき法定数の有効署名があるものと誤信して賛否の投票をしたものというべきであつて、本件解職請求につき法定数の有効署名がなかつたことは投票の結果にも著しい影響を与えているのであると付陳した。(立証省略)
被告代理人は「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として原告の請求原因中原告が大槻町における選挙権者であること、昭和二十三年五月十八日有権者である訴外前林一茂が代表者となつて大槻町選挙人千二百二十四名(署名者総数千三百二十名から選挙権のない者九十六名をのぞく)の記名調印ある解職請求者署名簿をそえて同町長岡部文治の解職請求書を同町選挙管理委員会に提出したこと、同委員会は右請求に基き同年六月三十日賛否投票を執行したこと、同町選挙権者総数および右投票の結果が原告主張の通りであつて、賛成投票多数で同町長解職が成立したこと右投票につき原告から同町選挙管理委員会に対する異議申立があつてから被告委員会において訴願の裁決をしてその裁決を告知したまでの経過が原告主張の通りであることは、いずれも争わないが原告主張のような本件請求者署名簿の成立過程は不知であり、解職請求者署名簿に署名した有権者千二百二十四名中には原告主張のような代筆署名のあることは争う、ただし本件解職請求者署名簿中大槻町選挙管理委員会が有効署名と認定した右千二百二十四名のうち別紙目録(乙)記載の各連(一ないし百十三連)の署名が同一人の筆跡であることは争わないが、各連の署名中一名だけは本人の自署とみるべきであるから、代筆とみるべきものは右目録(乙)記載の百十三運二百七十二名から百十三名を控除した百九十五名でこれを前記署名数から差し引いても法定署名数を超過することは明白である。しこうして署名簿中に無効署名があつても有効署名数が法定署名数を超えるかぎり署名簿それ自体の無効原因とならないことは明らかであつて、このことは選挙における投票に際し無効投票の存在することは選挙の結果に異動を生ずるおそれのない限り選挙無効、当選無効とならないことに徴しても首肯しうるところである。のみならず、
一、町選挙管理委員会において請求者署名簿を受理するに際して行う審査は形式的に署名簿自体について行えば足り、各署名が果して本人の自署であるか本人の意思に基くものであるか等を筆跡鑑定あるいは本人に対する審問等の手段により審査することはその権限を超えたものといわなければならない。そもそも解職請求はただ住民の一般投票に付する要件をなすに止まり、果して町長の解職を是とするかどうかは、住民の一般投票によつて明らかにせられる趣意であることにかんがみ、住民全体の意思が明らかになつた後に、県選挙管理委員会において訴願の裁決をなすに当つて行う署名簿の審査は、町選挙管理委員会が果して適法に署名簿を審査したかどうかに止まるべきであり、実質的に署名の有効無効を審査することは、これまた権限に属しないことといわなければならない。被告においては、上述の観点に立ち、署名簿の形式的審査を行い、その結果に基き裁決を行つたのであり原告の申立は全く理由がないものである。
二、原告は本件署名簿に記載されかつ大槻町選挙管理委員会において選挙人名簿に登載された有効署名であると証明した千二百二十四名の署名中に多数の代筆署名が存する旨主張するが、被告において署名簿の審査をなした結果明白に代筆と判定される署名数は千二百二十四名と法定署名数九百十一名との差三百十三名に達しない。地方自治法施行令第百十六条において準用する同令第九十二条第一項に規定する署名は自署たるを要することは被告においても異議はない。しかしその署名簿を受理する際における選挙管理委員会の審査は前述のように形式的審査に限るものであつて、その解釈は同一家族または同一世帯内の有権者である等の事情を勘案し、その筆跡から判断して明らかに代筆署名と認められる署名に限り無効として取り扱うべしとする屡次の行政実例の示すところである。被告においては右の趣旨に従つて委員に命じ、審査せしめその報告書に基き裁決したものであつて、被告のなした裁決には何等違法の点は存しない。
三、本訴において原告の主張する本件解職請求者署名簿の成立過程は前述のとおり被告の知らないところであるが、たとえ原告の主張する事実が存在すると仮定しても、それをもつて直ちに本件署名簿が無効であるということはできない。すなわち、大槻町選挙管理委員会において本件署名簿を受理するに当り、適法に審査の上適法と認めて受理したことは明白な事実である。選挙管理委員会において実質的審査権も審査義務もない以上、その正当な審査をした結果受理した署名簿は適法なものというべく、これに基いて執行された解職賛否投票には何等かしを伴わないものである。しこうして選挙管理委員会の審査権は明らかに自署でないと認められるものを無効として扱いうるにとどまり、疑の存するものあるいは生じたものについては有効として一応認定するほかないものであり、また被告の裁決を違法なりとする訴の審査は、被告の審査権の範囲にとどまるべきであるから、被告の裁決に違法の点が存しない限り本訴は棄却せられるべきである。
四、仮に本件署名簿中代筆署名を差し引くと有効署名数が法定数に達しないとしても本解職賛否投票は有効である。その理由は次のとおりである。
1. 直接請求に関する争訟には、地方自治法第八十五条により同法第四章の規定が準用されている結果、同法第六十七条の規定が準用される。本件投票に関して町選挙管理委員会は適法に署名簿を処理し、適法に投票を執行しているから何等投票の規定に違反することがない。またたとえ、投票の規定に違反することがあつても署名簿の有効無効は、賛否投票の結果にはいささかも異動をおよぼすおそれがない。
2. 原告は無効なる署名簿により執行された投票は、理論上当然無効であると主張するも、署名簿は住民の意思を問うための賛否投票執行請求の要件たるにとどまり、町選挙管理委員会において執行する賛否投票事務は独立の手続となり、賛否投票の結果により投票数を処理すべきものである。代筆署名の有無により投票によつて表明された町住民全体の意思を無視することは直接請求制度、更に地方自治制度の趣旨に反するものである。
五、有効署名が法定数に達するかどうかは、解職投票の前提要件であることは原告の言をまつまでもなく明らかであるが、署名が有効かどうかに対する選挙管理委員会の審査の権限は、現行制度上一定の限界を有するから、ここにいう有効署名とは、選挙管理委員会が現行制度ならびに実例に基き、適法に審査し判定した署名の謂でなければならない。また被告においては本件投票の前提要件である署名簿のかしを不問に付している訳ではないが、被告は直接請求制度における請求者署名簿はあくまで住民意思の直接の表現である賛否投票の前提手続であつて、それ自身直接に解職を成立せしめるものでなく、投票の契機となるものであつて、一連の解職手続における法的かつ事実的重要性は投票にあることを主張するものである。このことは解職投票に関しては、地方自治法の規定により厳重な手続を経るにかかわらず、なお署名簿に対する選挙管理委員会の審査の権限は、形式的審査にとどまるものとせられ一定の限界を有することをもつて明らかである。
六、署名簿の各紙葉間に契印がなくとも、連署たる要件を欠くことにはならない。と述べた。(立証省略)
三、理 由
原告が昭和二十三年六月三十日行われた福島県安積郡大槻町長岡部文治の解職賛否投票における選挙権者であること、同年五月十八日同町の選挙権者である訴外前林一茂が代表者となつて同町の選挙権者千二百二十四名の記名調印ある解職請求者署名簿を添えて同町長岡部文治の解職請求書を同町選挙管理委員会に提出したこと、同委員会は右請求に基き同年六月三十日解職賛否投票を行つたこと、右解職請求当時における同町選挙権者総数は二千七百三十二名であつて、その賛否投票総数千九百六十五票のうち有効投票数は千八百三十八票、無効投票数は百二十七票で右有効投票数中解職賛成のもの千三十二票、反対のもの八百六票であつたこと、原告が同委員会に対し、同年七月十四日右投票の効力に関する異議の申立をしたところ、同委員会は同年七月十六日原告の異議を排斥する旨の決定をしたこと、原告は右決定に対し、同年八月五日被告委員会に訴願したところ、被告委員会は同年十月五日原告の訴願は成り立たない旨の裁決をし、右裁決書は同月八日原告に送達されたことはいずれも当事者間に争がない。
よつてまず訴外前林一茂の提出した本件署名簿がその成立過程よりして適法な方式を欠き無効のものであるとの原告の主張につき判断するに、成立に争のない甲第五号証、同第七号証、証人前林一茂、秋山孝仁、前林亀喜、岡部藤信の各証言をそう合すれば、訴外前林一茂が大槻町長岡部文治の解職請求代表者となつて解職請求者署名簿を同町選挙管理委員会に提出し、地方自治法施行令第九十四条第一項の規定による証明を求めたのは前後三回で、(1)第一回目は昭和二十三年四月二十六日であつたが、代表者の証明書の交付を受けずに署名を求めたとの理由で同日却下、(2)第二回目は同年五月四日であつたが、署名簿中に代筆のもの相当多数あり、これを差し引くと法定署名数に達しないおそれがあるとの理由で同月六日却下、(3)第三回目は同年五月十四日頃であつたが、同委員会では審査の結果形式上完備しておるものと認め、選挙人名簿と照合し、解職請求者署名簿に署名捺印している者が選挙人名簿に記載されている者であることを確認したものについては照合簿と署名簿に契印し、かつ署名簿に署名捺印しているものの総数およびその者の中で選挙人名簿に記載された者の総数を計算し、これを署名簿の末尾に記載し請求代表者に返付した。そこで請求代表者前林一茂は前記のように同月十八日右署名簿を添えて大槻町長岡部文治の解職請求書を同町選挙管理委員会に提出したのであるが、右第三回目の署名簿は契印欄番号欄の形式等前二回のものとは全く異る用紙を用い全然新しく作成したものであつて前二回に署名を得たものをそのまま流用したのではないことが認められる。原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用できず、その他右認定を左右するに足る証拠はない。なお原告は右署名簿には、各用紙の間に契印がないから連署の形式を具備しないと主張するが、右署名簿検証の結果によれば右署名簿はその各用紙の間に特に割印を存しないけれども、番号順に署名捺印されたその態様からして連署たるの要件をそなえたものと認め得るから、原告の右主張は採用することができない。
次に原告は本件解職請求者署名簿に記名調印している選挙権者千二百二十四名中には自署でないものが多数含まれていて、これを差し引くと法定署名数に達しないと主張するので、以下この点について検討する。
一、別紙目録(甲)の第一(原告が同一人の筆跡と見られると主張するもの)中右の各連(別紙目録(乙)記載のもの)すなわち1、2、3、4、5、7、(ただし、四十六番を除く)、8(ただし、五十六番を除く)、9、10、11、13、14(ただし、七十七番を除く)、15、16、17(ただし、八十七、八十八番を除く)、18、19、20、21、22、23(ただし、百十四番を除く)、24、25、26、27、28、30、32、35、38(ただし、百九十二番を除く)、39、42(ただし、二百九、二百十二、二百十三番を除く)、43、51、52、56、57(ただし、被告は二百七十三、二百七十四番は同一人、二百七十五、二百七十六番は別の同一人の筆跡と主張する)、58、63(ただし、二百八十八番を除く)、67(ただし、三百一、三百二番を除く)、68、69、70、71、72(ただし、被告は三百十五、三百十六番は同一人、三百十七、三百十八、三百十九番は別の同一人の筆跡と主張する)、74、75、76、77、79(ただし、三百三十八、三百四十一、三百四十二番を除く)、80、81(ただし、三百五十一番を除く)、90、99、102(ただし、被告は四百三十、四百三十一番は同一人、四百三十二、四百三十三番は別の同一人の筆跡と主張する)、104、105、106(ただし、四百五十三ないし四百五十六番を除く)、107(ただし、四百六十二、四百六十三番を除く)、111(ただし、四百七十五番を除く)、118(ただし、四百九十八番を除く)、120、122、124、125、128、133、135(ただし、被告は五百四十七、五百四十八番は同一人、五百四十九、五百五十、五百五十一番は別の同一人の筆跡と主張する)、139、142(ただし、五百七十五番を除く)、144、145、146(ただし、五百八十七番を除く)、147、149、156、159、160、162、163(ただし、六百四十二番を除く)、168、171、172、173、174、181、185、189、197(ただし、七百五十五、七百五十六番を除く)、198、199、212、223、242、243、244、248、249、253、254、255、257、258、277、284、285、288、300、306(ただし、千三百九番を除く)の百十三連(ただし、57、72、102、135はいずれも各二連として計算)合計二百七十名については右各連の署名が同一人の筆跡であることを被告の認めて争わないところである(被告が同一筆跡であることを認める別紙目録(乙)記載の百十三連二百七十二名中6の四十五番および66の五百十番はいずれも有権者でない者の署名であつて、原告においてもそれが他の署名と同一筆跡であると主張しないものであるから、この分を除外する。)。原告は右57の四名、72の五名、102の四名、135の五名はいずれも全部同一人の筆跡であると主張するけれども、これを認めるに足る証拠はないからして、右はいずれも前掲被告の認めるとおり57は二百七十三番と二百七十四番とが同一人、二百七十五番と二百七十六番とが別の同一人の筆跡、72は三百十五番と三百十六番とが同一人、他の三名か別の同一人の各筆跡、102は四百三十番と四百三十一地とが同一人、他の二名が別の同一人の各筆跡、135は五百四十七番と五百四十八番とが同一人、他の三名が別の同一人の各筆跡と認めるべきである。なお鑑定人加藤豊一郎および小野胥の各鑑定の結果によれば、その他の上記各連中被告の争う部分(但書として括弧内に記したもの)のうち17の八十七番、23の百十四番、38の百九十二番、63の二百八十八番、67の三百二番、79の三百四十一番、三百四十二番、81の三百五十一番、111の四百七十五番、197の七百五十五、七百五十六番、306の千三百九番は、いずれも被告において同一筆跡たることを認める右各連の他の署名と同一人の筆跡であること、また106の四百五十三番は被告において同一筆跡たることを認める同連の四百五十七番、四百五十八番と同一人の筆跡であつて、四百五十四番、四百五十五番、四百五十六番は右とは別人の同一筆跡であり、107の四百六十二番、四百六十三番は被告において同一筆跡たることを争わない四百六十番、四百六十一番とは別人の同一筆跡であることが認められ、右の認定を妨げるに足る証拠はない。しかし右以外の分すなわち7の四十六番、8の五十六番、14の七十七番、17の八十八番、42の二百九番、二百十二番、二百十三番、67の三百一番、79の三百三十八番、118の四百九十八番、142の五百七十五番、146の五百八十七番、163の六百四十二番等については、それが右各連記載の他の署名と同一筆跡たることを認めるに足る証拠はない。以上同一人の筆跡と認めるべきものは合計百十五連二百八十八名となる。
二、次に前記目録(甲)第一中右一に記載した以外の各連の署名が同一人の筆跡であるかどうかについて考察するに、前記鑑定人加藤豊一郎および小野胥の各鑑定の結果によれば、右目録記載の左記各連の署名は夫々同一人の筆跡であることが認められる。
50の三名、54のうち二百六十七、二百六十八番の二名、61の二名、62の三名、66のうち二百九十四、二百九十五、二百九十六番の三名、78、82の各三名、84、85、86、88の各二名、91のうち三百八十六、三百八十七番の二名、三百八十八、三百八十九番の二名、92の三名、96のうち四百六、四百七番の二名、100、101の各二名、110のうち四百六十九、四百七十番の二名、115のうち四百八十七、四百八十八、四百八十九番の三名、121の三名、126の二名、129のうち五百三十三、五百三十四番の二名、131のうち五百二十五、五百二十六番の二名、五百二十七ないし五百三十番の四名、132の二名、148のうち五百九十一、五百九十三番の二名、167の四名、169のうち六百五十九、六百六十番の二名、175、182、183の各二名、191のうち七百三十三、七百三十四番の二名、203、214、226の各二名、228のうち八百八十八、八百八十九番の二名、229、231、233、236、237の各二名、239のうち九百六十五、九百六十七番の二名、247のうち九百九十三ないし九百九十六番の四名、251の二名、256の三名、259の二名、260のうち千四十三、千四十六、千四十七番の三名、261のうち千四十八ないし千五十番の三名、266の千七十八、千八十三番の二名(千七十九番は選挙人名簿に登載されていない者の署名であるからこれを除外する)、272のうち千百十四、千百十五番の二名、千百十六、千百十七番の二名、274の二名、275のうち千百二十九、千百三十番の二名、278の三名、279、280、281、283、286、289の各二名、294のうち千二百十二、千二百十三番の二名、千二百十五、千二百十六番の二名、千二百十七、千二百十八番の二名、297のうち千二百三十五、千二百三十六番の二名、299のうち千二百五十二、千二百五十三番の二名、千二百五十四、千二百五十五番の二名、302の二名、303のうち千二百八十五、千二百八十六番の二名、304の二名、以上合計七十連(ただし、91、131、272、299はいずれも各二連として、294は三連として計算)百五十九名、更に鑑定人加藤豊一郎の鑑定の結果によれば左記各連の署名もそれぞれ同一人の筆跡と認められる。
12の二名、64の二名、73の二名、87のうち三百七十一、三百七十二番の二名、95の三名、96のうち四百八、四百九番の二名、97のうち四百十ないし四百十二番の三名、116のうち四百九十二、四百九十三番の二名、117の二名、123の三名、129の二名、140の五名、152のうち六百四、六百五番の二名、186のうち七百八、七百九番の二名、187の二名、188の二名、191のうち七百三十一、七百三十二の二名、201の三名、202の二名、211の二名、224のうち八百六十四、八百六十五番の二名、245の二名、267の三名、271の三名、273のうち千百十八、千百十九番の二名、276のうち千百三十一、千百三十二番の二名、296の二名、以上合計二十七連、六十三名。
鑑定人小野胥の鑑定の結果中右認定に反する部分は採用し難く、また乙第一号証の九、十等の記載内容はたやすく信用できず、その他に右の認定を動かすに足る証拠はない。なお原告が同一人の筆跡であると主張する前記目録(甲)第一記載の各連中以上同一人の筆跡と認定した以外の分については、鑑定人加藤豊一郎の鑑定の結果中に一部原告の主張に符合するものがないのではないが、この分は当裁判所の採用しないところでありその他に原告主張事実を認めるに足る証拠はない。
三、以上一および二で同一人の筆跡と認めた各連の署名が各連の記名人のうちの一人によつてせられたか、それとも記名人以外の第三者によつて代筆せられたかの点であるが、特に右のいずれかであることを確認し得る証拠のあるものは別としてそうでないものは各連の記名人のうちの何れかの一人によつて書かれたものとみるのが実験則に適するものと解するのを至当とする。ところで、
(1) 証人相樂春吉の証言によると25の百二十五、百二十六番の二名は記名人以外の第三者が代書したことが認められ、
(2) 証人佐藤武、渡辺紋三郎の各証言によれば、129のうち五百三十一、五百三十二番の二名は第三者の渡辺紋三郎が代書したことが認められ、
(3) 証人七海ミツの証言と前記鑑定人加藤豊一郎の鑑定の結果によれば、201の七百七十五番ないし七百七十七番は第三者の代筆にかかることが認められる。
右の外甲第八号証の三、七、十五、十六、十七、二十二、五十五等には同一筆跡と認定した前記各連中のものについてそれが記名人以外の者の書いたものであるとの趣旨の記載があるが、これだけではまだその関係連の記名全部が第三者の代筆したものであることを認めるに十分でなく、他にかかる事実を確認するに足る証拠はない。
しこうして一および二で同一人の筆跡と認めた合計二百十二連五百十名から右(1)ないし(3)で認定した第三者の代筆にかかるもの三連七名を除いた二百九連五百三名については、その中、
(イ) 129につき五百三十三番木原喜久が五百三十四番の同ヨシノの氏名を代書したことを証人木原ヨシノの証言により
(ロ) 306につき千三百九番の影山吉美が他の三名の代筆をしたことを証人影山留吉の証言により
各認め得るほか、何人が書いたかを確認するに足る証拠がないからこれ等については前記の理由により各連の中一名だけは自署でその他は代筆と認めるのを相当とするから、結局この分につき代筆とみるべきものは右五百三名から二百九名を差し引いた二百九十四名で、これに前記第三者の代筆にかかる三連の七名をくわえると合計三百一名となる。
四、次に原告が本人の自署でないものと主張する別紙目録(甲)第二記載のものについてであるが同目録の(三)に記載した五名は選挙人名簿に記載せられていることを確認されなかつたものであることは前掲甲第七号証添付の署名簿によつて明らかであつて、前記千二百二十四名中に含まれないのであるから、それが代筆であるかどうかを判断するの要はない。また右目録中(二)は前記目録(甲)第一に掲げられた署名と重複するものであつてそのうちに五百三十一、五百三十二番(129の一部)、五百三十三、五百三十四番(129の一部)、五百四十八ないし五百五十一番(135)、五百五十二ないし五百五十五番(136)、七百三十二番(191の一部)、七百七十五、七百七十七番(201)、八百六十四、八百六十五番(224)、千三百七、千三百八、千三百十番(306)、百二十五、百二十六番(25)、二百五十三ないし二百五十五番(51)、四百十ないし四百十二番(97)、七百五十七ないし七百五十九(198)、七百七十ないし七百七十二番(200)については、右各連の全署名または一名を除いた他の署名が代筆であることをすでに前段において認定した。よつて以下第二(二)のうち残りの部分および前記目録(甲)第一にあらわれていない第二の(一)の分について考察する。
まず第二(二)のうち
(1) 五百五十九番、五百六十番については、証人大谷ミドリの証言により
(2) 七百九十七番、七百九十八番については、証人鈴木栄三の証言により
(3) 千百五十八番については、証人宮地秀雄の証言により
(4) 千二百八十八番、千二百八十九番については、証人阿部午三、安田武男の各証言により
いずれも関係各本人の自署でないことが認められ、右認定を妨げるに足る証拠はない。
次に第二の(一)のうち
(1) 百二十四番については、証人相樂春吉の証言により
(2) 百七十八番、百七十九番については、証人澁井栄蔵の証言により
(3) 二百五十番、二百五十一番については証人江川淳(第一回)の証言とこれにより成立を認め得る甲第八号証の二により
(4) 六百八十六番、六百八十七番については、証人大沼アキの証言とこれにより成立を認め得る甲第八号証の十二により
(5) 八百三十五番については、証人三瓶清の証言により
(6) 八百四十六番については、証人黒田政治の証言により
(7) 九百二十六番については、証人樽川留八、鈴木藤太郎の各証言により
(8) 九百二十九番、九百三十六番については、証人鈴木藤太郎の証言により
(9) 千六十五番については、証人影山久作の証言により
(10) 千百九十七番については、証人鈴木広政の証言により
(11) 千三百四番については、証人影山源之助、影山半五郎の各証言により
(12) 千三百五番、千三百十一番については、証人早坂源次郎、影山半五郎の各証言により
(13) 千三百十四番については、証人影山半五郎の証言により
(14) 千三百十六番については、証人遠藤タツの証言により
いずれも各本人の自署でないことが認められる。証人鈴木亀雄の証言および乙第一号証の二、四等はたやすく採用し難く、その他に右認定を左右するに足る証拠はない。以上右目録(甲)第二中自署でないものと認めた署名数は合計二十六名となる。
以上により本件署名簿の千二百二十四名の署名中自署でないものと認定したものの合計は三百二十七名であつて、これを右署名数から差し引くと八百九十七名となり法定の署名数九百十一名(有権者総数二千七百三十二名の三分の一)に達しないことが明らかである。
被告は町選挙管理委員会において解職請求者署名簿を受理するに際して行う審査は形式的に署名簿自体について行えば足り、各署名が本人の自署であるか、本人の意思に基くものであるか等を筆跡鑑定、本人の尋問等の方法によつて審査する権限はない。従つて、投票後において県選挙管理委員会が訴願の裁決をするに当つて行う署名簿の審査も町選挙管理委員会の審査し得る限度、すなわち形式的審査に限るべきであり、また被告の裁決を違法とする訴についての審査も、右のような被告の審査権の範囲にとどまるべきであると主張するが、解職請求書に法定数の署名ある解職請求者署名簿を添えることは解職請求の欠くべからざる要件であつて、もし署名簿に法定数の適法な署名を欠く場合においては、これに基く解職賛否の投票は無効と解すべきである。されば町選挙管理委員会において解職請求書を受理するに際して行うべき審査が形式的審査で足るかどうかは、ともかくとして、少くとも投票の効力に対する異議、訴願、訴訟等の段階においては、右の点に関する不服の理由につき実質的な審査を行い、果して適法な法定数の署名があつたかどうかを審理判断すべきものといわなければならない。
また被告は仮に本件署名簿中の署名数から自署でないものを差し引くと有効署名数が法定数に達しないとしても、本件投票に関して町選挙管理委員会は適法に署名簿を処理し、適法に投票を執行したのであるから、何等投票の規定に違反せず、また、たとえ投票の規定に違反することがあつたにしても請求者署名簿の有効署名数が法定数に達していたかどうかは解職賛否投票の結果にいささかも異動をおよぼすものでないから、本件解職賛否投票が無効であるとすることはできないと主張するが、たとえ町選挙管理委員会が審査の結果、町長の解職請求を適法と認めて解職賛否投票を実行したとしても、解職請求者署名簿に登載された選挙権者の署名中に自署でないものが多数含まれていてこれを差し引くと法定の署名数に達しないような場合には、その解職請求が適法であるといえないことはもちろんである。いうまでもなく解職賛否の投票は適法な解職請求を前提としてのみ行わるべきものであり、すでに述べたとおり、解職請求書に添付された請求者署名簿中に適法な法定数の署名の存することは解職請求についての不可欠の要件であるからして、かかる要件を欠く違法な解職請求に基いてせられた解職賛否投票も結局遠法に帰するものといわなければならない。すなわち適法な法定署名数を欠く解職請求者署名簿を添えた解職請求に基いて行われた解職賛否の投票は、結局投票を行うべからざる場合にこれを行つたことに帰着するからして、その結果如何にかかわらずこれを無効と解すべきである。もしも被告の主張するように、すでに解職賛否投票が実施せられ、その結果解職賛否についての町民の意思が判明した以上、解職請求についてのかしはもはや投票の無効を主張する理由とするに足りないとすれば、今更解職請求の適法性について(単に実質的部面のみならず、形式的要件についても)論議することは無用のことに属するであろうけれども、しかし解職請求からその賛否投票に移行するまでの間において、解職請求の適否についての不服申立を許容してその効力を確定すべき段階を設けていない現行制度の下にあつては、解職請求についての違法は解職賛否投票の効力を争う理由となし得るものと解すべきである。しこうして解職請求について前記のような違法の存するときは、解職賛否投票の結果如何にかかわらずその投票を無効と解すべきことは前に述べたところである。のみならず解職賛否の投票に当る一般町民は法定数の署名ある請求者署名簿を添えた適法な解職請求に基いてその賛否投票が行われるものと信じて投票するものとみるべきであるからして、解職請求者署名簿に法定数の適法な署名があつたかどうかということが、投票の結果に異動をおよぼすおそれがないものといいきることはできないものといわなければならない。
従つて被告の以上の諸点に関する主張はすべて採用し得ない。
以上と異る見解の下に原告の訴願を排斥した被告の裁決は違法であり、かつ本件解職賛否投票は、前認定のように結局法定数の適法な署名を欠く解職請求者署名簿を添えた解職請求に基くもので無効と解すべきであるから、原告の本訴請求はこれを認容すべきである。
よつて訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 谷本仙一郎 村木達夫 猪狩真泰)
(目録省略)